僕のミッションは何だ?

昔、『MYST』というゲームがありました。簡単に言うと脱出ゲームなんですが、当時、世界中で人気となったその美しいグラフィック以上に話題を呼んだのは、ゲームのスタートだったのです。
ゲームを起動すると、プレイヤー、つまり自分が、表紙に『MYST』と書かれた本を見つけるシーンから始まります。本をめくると、最初のページには島の地図の絵があり、それががくがくっと動きはじめ、停止します。そして、プレイヤーは本の中の世界、つまり、この島に入り込んでしまうという設定です。そして、ここが何処なのか、これから何をすればよいのか、全く分からないというところからのシーンからスタートするのでした。
それまでのゲームは、例えばゴールに早く着く、敵を倒しながらお姫様を救うなど、プレイヤーが何をすればいいのか、つまりミッションが明確でした。そしてプレイヤーは与えられたミッションをできるだけスマートに解決すれば良かったのです。攻略本もその為に存在しました。
しかしMYSTは違ったのです。

「僕のミッションは何だ?」

現代は、問題解決能力よりも問題発見能力が必要だと言われます。では、その能力を付けるにはいったいどうしたらいいのでしょう。

3月11日。東日本大震災があったその日、私たち6Csは神社でワークショップを開きました。

ここは、非日常のような、それでいて日常でもある空間、神社です。ワークに集まった子どもたち、大人たちは、小野神職のお話を伺います。

「神社って何をするところだと思う?」「どんな時に来たことがある?」「自分が行ったことのある神社を紹介してください」
そんなワークが始まりました。

お守りの成り立ちも紹介されます。神社自体が、ご祭神であることが説明されました。山というような大きな自然を日本人は神と崇めていたこと、より身近にお参りができるよう神社ができ、もっと身近にと、各家庭の神棚、そして私たちが良く手にする「お守り」へと形態を変えて行きました。行ってみれば、お守りは携帯神社なのです。

さて、この小野照崎神社。最近、心ない人に賽銭箱が壊されたという事件がありました。ここまで神様の話を聞いた私たち、大人も子どもも、とても悲しい気分になります。「えー!ひどいね」そういう声も聞こえました。
ここで、この心ない行為に、ご祭神の小野篁公が怒っている。怒りを鎮めねば。という共通の課題が心に刻まれるのです。

そこで皆に渡されたのは写真。
さて。

「ねえ、どういうこと?」という声も飛び交います。
「何だろうねえ」
6Csのワークでは、小学生以上は親と違うグループに入ることがルールになりました。
子どもは自分の親に「何をすれば良いのか」が聞けない状態です。

「とにかく外に行ってみよう!」誰かが叫ぶと、子どもたちがパッと立ち上がりました。
大人は、それがミッションだと教えられないと動かないので、腰が重いです(笑)
子どもの初速度の大きさに驚いた大人達も、出遅れてはいけないという焦りにようやく重たい腰があがります。

子どもたちは、むやみやたらに動きます。

そうするうちに、そこにある神社特有の彩色と、写真の色彩のトーンが似通っていることに気づくのです。
中には文字が書いてある写真もあります。子どもたちは、動き回ることにより、何をしたらいいのかが徐々に分かっていくのです。

「ここの写真だ!」と声が上がります。
一時、一箇所に全員が集まりました。
「なるほど、そういうことか」と散る子どもと、「私たちの写真のものもここにある」と思ってとどまる子どもがいますが、そういう子もすぐにまた「そうか!」と言ってその場を去り、チームに合流します。
自分たちも同じように、写真に映っている場所を探せば良いんだということに気づいたのでしょう。
それで正解かどうかは分からないのですが、得られたことをヒントにできるだけのことをしてみるのですね。

皆、その場所をぐるぐるしています。見当をつけた周辺をぐるぐるすることは、問題発見に重要な行動なのだと分かりました。

「封筒発見!」誰かが謎の封筒を見つけて叫びます。「封筒?」またみんなが一箇所に集まります。これがゴールなのか?これを皆で探すミッションだったのか?

皆がそう思った時、まったく別の場所から声が上がります。

「僕たちも封筒発見!」

「え?封筒っていくつもあるの?」2つの封筒発見を元に考えた子どもが、私に聞いてきます。
「それは私には分からないわ。どう思う?」私は子どもに答えます。本当は知っています。だって、封筒を隠したのは私なんですから(笑)

「あった!」
また叫び声が聞こえた時、その子の行動は決まったようでした。
「僕たちの分は、このあたりにあるんだよ。きっと!」

実は、私が隠した封筒は6通だったのですが、合計7通の封筒が発見されました。予定外の封筒には、謎の言葉が書かれていました。神様の遊び心だったのかもしれません。

さて、封筒の中にはクロスワードパズルが入っていました。
初めてクロスワードパズルを見る子もいる中、ルールを知っている人が解き始めたことで、このパズルのルールが自然と分かったようです。これは問題解決のポイントですね。

このクロスワード、私がかなりの力を入れて作ったのですが、子どもたちはあっという間に解いてしまいました(笑)

パズルは埋まりました。解くには解けたのです。さて、この次は何をしたらいいんだ?という表情の子どももいます。みんな、うろうろしています。
「解けちゃったよ」
「ぼくのところもだよ」
「黄色いマスのところ、『ん』だったよ。そっちは?」
「え?黄色いマス?」

「みんなの紙、持ってきて!」
突然女の子が叫びました。
ワーッと集まります。「ん」「さ」「こ」「い」「ば」「せ」???

そして、黄色い文字を集めてみると「さいせんばこ」になることが分かったのです。
そうか!そう言えば、神主さん、ご神職は、この神社の賽銭箱を壊されたって話をしていたっけ。

「賽銭箱のところに行ってみようぜ!」
また身軽な子どもたちがワーッと外に出て行きます。

大人が失ったフットワークの軽さ。見習った方が得策のようです。
大人がちんたらと靴を履いている間に、子どもたちが封書を抱えて戻ってきました(笑)
最高に興奮しています。

「クエスト達成おめでとう。皆の協力に感謝する。皆で、お守りを作ろう。」
封書に書かれていた言葉に、子どもたちは大はしゃぎです。

その後、お守りを皆で手作りしました。

自分ができることを人に教えてあげる。そういう自然の流れが出来ています。みんなが何かに向かっているということが分かるのです。一人勝ちを狙わない子どもの素直さを見習いたいものです。

お守りはできました。しかし、それはまだ完成ではありません。神様が入っていないのです。

皆のお守りに、御霊を入れる儀式が執り行われることになりました。
神職の小野さんが、さっきとは違う格好をしています。子どもたちに緊張が走ります。
本殿に上がる前に、手を洗い、口を清めました。

ひとつひとつの作業の度に「これから、ふざけたり騒いだりしてはいけない、大事な大事なことが始まるんだ」という空気を、子どもたちも感じたようで、いつも賑やかなの男の子達も、ふざけるどころか、私語もないくらいしーんとしていました。

本殿での本格的な儀式です。

お守りの中に神様が入る時、祝詞を挙げてくださったのですが、「6Cs(シックスシーズ)の子どもたちが」という節が聞こえました。

これが、神様が入ったお守りです。
お守りは、携帯用の神社だというお話は最初に伺ったのですが、こうして本当に神様が入る儀式を目にすると、お守りに対する畏怖の念が出てきますね。

 

6Csとは、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ教授と、キャシー・ハーシュ=パセック教授が著書『科学が教える、子育て成功への道』の中で提唱している6つの能力です。

Collaboration(コラボレーション)
それぞれの強みを活かし弱みを補い合う

Communication(コミュニケーション)
対話によって互いが満足するストーリーを作る

Content(コンテンツ)
専門領域について熟知し直感が働く

Critical Thinking(クリティカル・シンキング)
根拠に基づき熟慮して上手に疑う

Creative Innovation(クリエイティブ・イノベーション)
変革について大きなビジョンを持つ

Confidence(コンフィデンス)
熟慮した上で失敗にひるまず挑戦し続ける

6Csラボは、この6つのCを意識し、レベルを高め、他者と協力しながら創造的に生きる人を増やしたいという理念があります。
今回は、コラボレーション、コミュニケーション、クリエーションを特に意識してワークを形成しました。
しかし、問題発見から始まり、仲間と課題を見つけてそれを解きすすめることで、他の要素も経験できたように思います。

  • 何が問題なのかを見極める。
  • とにかく周辺をうろうろする。
  • そこで見つかったヒントを蓄える。

そして、解決には、仲間が必要です。

他人の智恵を授かる、体験のお裾分けをもらう、今回のように、隣のチームの人の叫びから、ヒントを得ることもありました。そうして、ひとりではたどり着かなかった域にいけるのだということを、子どもも大人も体験を通じて理解したと思います。

特に大人はこういうことを「わかりきったこと」と捉えがちです。頭で考えるだけで、足を動かさないのです。今回も子どもたちのフットワークの軽さに学ぶべき点がたくさんありました。

もちろん、たった1回の経験では習慣化まで行きません。でも、意識するだけで景色は変わります。先に述べたMYSTのゲームで、私がまず島を探検しようと決めたこと、そして鍵がかかって入れない建物を何周も何周もしたあと、草陰に1枚の手紙の破片を見つけたことが、ゲーム攻略の最初のきっかけだったように、あなたも仲間と共に、自分のミッションは何か、問題は何なのかについて探る旅に出ませんか? 重い腰を上げて。(笑)

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